ヤリの谷のナウシカ
気温は低いが天気は良かった。昼下がりから当たり前のようにタナゴ釣りに向かう。
今日は用水路だ。夏季から目を付けていた場所。水量があれば冬でも釣れると思っていた。
到着して水路を確認。魚影は見えないが、水量は安定した量が確保されている。
たくさんのゴミや落ち葉が浮かんでいて水は汚いのだが、さっそく竿をだす。
水草が多めの水路なので、水草と水草の谷間にそっとエサを落としてみた。
しばらく反応がなかったが、水草の陰から何かしらの魚影。エサに喰らい付く。
いきなり大きいヤリタナゴが釣れ上がる。8センチくらいある大人の個体だ。
調子に乗って同じポイントを狙う。
それから連続して大人のヤリタナゴが釣れてくる。いいポイントを見つけたぞ。
別の水草と水草の谷間に竿をだす。しかしそこだとモツゴやチビヤリが釣れてしまう。
なんだなんだ。最初に偶然竿をだした水草の谷間は「ヤリの谷」なのかもしれない。
ヤリの谷でヤリたちを操る私は、さしずめ「ナウシカおじさん」ということになるだろう。
「ヤリの谷」では安定して大きいサイズのヤリタナゴが釣れ続ける。
用水路の脇道を少女と老婆が通りすがる。少女が老婆に問う。
「ババ様。ヤリタナゴの赤い婚姻色が見えます。どんどんエサに群がってるみたい」
「ババにしっかりつかまっておいで。こうなってはもう誰も止められないんじゃ」
「ババ様。ヤリタナゴたちはみんな釣られてしまうの?」
「定めならね。従うしかないんだよ」
「わしのめしいた目の代わりによく見ておくれ」と老婆が言う。
少女は「あのおじさん真っ青な異国の竿を持ってるの。川は落ち葉で金色にみえる」
「おおっ。"その者 青き竿をもちいて 金色の用水路に降り立つべし"」
「古き言い伝えはまことであった」
ナウシカおじさんは40分ほどでヤリの谷のヤリタナゴたちをほぼ釣り上げてしまった。
もう一か所行きたいので急いで片付ける。写真を撮ってバケツの中を水路に放つ。
「ヤリタナゴ・・川へお帰り。この先はお前たちの世界ではないのよ。ねえいい子だから」
場所を大きく移動する。ブルー水路でブルーを釣りたい。残された時間は少ない。
やっとのことで到着。日没まで20分くらいしかない。急いで竿をだす。
ブルーを釣って野良猫の「うし」ちゃんにあげたいのだが、ブルーが釣れてこない。
タナゴも釣れなかった。釣れるのはモツゴとフナだけだ。
最後の最後で巨大なフナが釣れ上がる。針を引きちぎられた。ここで終了した。
短時間なので猫も姿を見せなかった。帰り支度を整えブルー水路を離れる。
最後に忘れ物はないかと水路の方を振り返ったら、そこに猫がちょこんと座っていた。
いつの間にやってきたのだろうか。物凄く愛おしい猫だ。
しかし今日はブルーが釣れなかった。あげるものがなにも無い。
猫は残念そうな顔をしてじっとナウシカおじさんの目を見つめている。
「ごめんね・・許してなんて・・言えないよね・・・」
後ろ髪を引かれる思いでその場を離れる。猫に無駄な期待をさせてしまった。
来週は早くに来て必ずブルーを釣ってやる。
そう心に誓った。