終身名誉二級釣り師の憂鬱
高梁川水系水路群の定期調査釣行。まだカネヒラは踊っているか。その調査だ。
通称「カネヒラ水路」を覗く。先客がいた。10人ほどの大家族。ちびっこが大騒ぎ。
場所を移動しようと思ったが、様子を観察してると色々気になった。
まずお魚キラーが沈めてある。父親はルアーを投げている。母親は空を見上げている。
もう何が何だか理解できなかったので、わざと近くで竿をだしてみようと思い立った。
ちらりとバケツを覗く。タナゴが30匹ほど入っている。カネヒラのオスも5匹ほど確認。
そのカネヒラたちは水面でパクパク口呼吸。さらに2匹ほどすでに水面に浮かんでいた。
失礼を承知でママに「仕掛けは誰が沈めてんの?バケツの中の魚は食べるの?飼うの?」
とワザとぶっきらぼうに聞く。ママは「あの~え~と。パパが・・。飼うと思います」
と、うろたえる。私は女性や子供には強気だ。怖かったと思う。が、容赦しない。
お魚キラーがダメと言ってる訳じゃない。子供が喜ぶのだろう。飼うのもいいと思う。
だったらせめてエアレーションくらいするべきだ。バケツの中の半数は死ぬだろう。
さらに今現在沈んでいるお魚キラーの中にいる不運なタナゴ達もそこに加わるはずだ。
なんという適当なキラーファミリー。こんな素人集団に釣り場を荒らされる二級釣り師。
そんな悪条件の中、わざとお魚キラーの近くで竿をだす。見とけよキラーファミリー。
今こそ終身名誉二級釣り師の実力を見せつける時。さあひれ伏せ。
ママやちびっこの見守る中、瞬殺、瞬殺、また瞬殺。ママは無言。ちびっこは目が点。
これがいわゆるひとつの終身名誉二級釣り師の瞬殺地獄だ。
「またちゅれたよ。パパは一匹もちゅれないのにね」ちびっこはこんな時も無邪気だ。
私は気づかなかったが、ちょうどこの頃、ママがパパを呼びに行ってたらしい。
次の瞬間、いきなり強面のパパに声をかけられた。
「あの~」とチンピラ風のパパ。動揺する私「はははははい。なな何でしょうか?」
そのチンピラパパから意外な一言。「ちょっと見物させてもらっていいですか?」
「どどどどういうことでしょう?」と問うと、
「全く釣れないんで・・。タナゴ釣ってるんですが・・。何がダメなんでしょうか?」
とのこと。だってルアー投げてるんだもの・・。と思ったが、一応タナゴ釣りを説明。
針は小さく、ルアーじゃなく練り餌で、ウキの動きであわせる。
「針大き過ぎますか~。しまったな~」なんて言いながら立ち去るパパ。
結局、聞くと、バケツの中は全てキラーで捕獲。魚が捕れるだけで子供が喜ぶんだそうな。
エアレーションのことは言いそびれてしまった。今更何を言っても無駄だろう。
お魚キラーのおかげで釣りにくいので30分であっさり終了。片付け、リリース。
「もうちゅらないの?」「ばいばい」と無邪気なちびっこに見送られる。
なんだか浮かない気持ちのまま場所を移動。通称「さみだれ水路」にやってきた。
さみだれ釣りでスッキリしよう。ヤリタナゴは瞬殺。カネヒラがまたもや釣れる。
さらにこちらでは初のシロヒレタビラまで釣れてしまう。何だか変なさみだれ水路。
気持ち良く釣っていると視線を感じた。一人のおばさんがじっと私を見ている。
以前にも2度ほどこのおばさんに見られている。地元のPTAの人だろうか。
「不審人物が用水路にいる」そんな通報を受けてのことだろう。きっとそうだ。
なんだか変な一日だ。私が全裸で釣り始めるタイミングを見計らってるのだろう。
が、季節はもう秋。寒いのに全裸で釣りをする草彅剛みたいなやつはいませんよ。
そんなことを思っていたらいきなり話かけられた。
「釣れるのね。けっこう魚いるのね」とおばさん。「ええフナですね」と適当な返事。
それから30分ほど話し込む。PTAじゃなくて、釣り好きのおばさんだった。
しかも釣りをしてるところを眺めているのが好きなんだそうな。変ったご趣味。
私が一か所をめがけて何度も餌を落としていると、「何がそこにいるの?」と聞く。
「ピンクのひらひら見えますかね?あれを狙ってるんですよ」
苦労したがやっとのことで狙いのカネヒラが釣れ上がる。おばさんにも見せてあげる。
「あれあれ。綺麗ね~。あらま」「今の季節綺麗なのはこいつだけなんです」
すっかり仲良しになってしまったおっさんとおばさん。
50分ほど釣ったわけだが、文句なしのさみだれ釣りだった。おばさんと別れる。
もう夕暮れまであまり時間がない。戻るか。戻ってみようか。あの場所へ。
戻る。約束の場所へ。ラストの約一時間。再びカネヒラ水路で釣る。
キラーファミリーはすでに立ち去っていた。立つ鳥跡を濁しまくり。
カネヒラの姿はほぼ確認できない。少し腹が立ってくる。この怒りを針に乗せよう。
手負いの獅子は無心で魚と向かい合う。全て瞬殺だった。
少しだが難を逃れたカネヒラも釣れてくる。9割はヤリタナゴだ。
この水路はヤリタナゴの割合が増えれば増えるほど入れ食いになる。
入れ食い状態でもエアレーションと途中の水替え作業は忘れない。
バケツの中はすぐに満員御礼となった。軽く100匹は超えてる。150に迫る勢い。
いくらなんでもちょっと釣れ過ぎ。立つ鳥が跡を濁したそのさらに後でこのポテンシャル。
岡山の底力とはこういうことだ。そして終身名誉二級釣り師の底力もこういうことだ。
見たかキラーファミリー。
これがいわゆるひとつの終身名誉二級釣り師という生き様じゃ。