足守川で救出した足守伊之助の短い物語
これは先週の話だ。足守川水系にタナゴを釣りに行った時のこと。
とある用水路で溺れている生き物を発見した。コンクリート護岸の深い用水路。
岸を這い上がろうともがくが、さすがにコンクリートの護岸は彼にとっては難敵だ。
一度はそれでもなんとかなるだろうと放置した。
しかし10分後に見てみてもまだもがいてる。しかも生命力がもう尽きそうにみえた。
私は釣りを中断して、車に向かって走った。
車のトランクには常に網とセーラー服が常備してある。網を手に用水路に走る。
そして溺れる寸前のその生き物を網で掬いあげた。
なんだかわからない謎の生き物。さすがにタナゴじゃないことは私にもわかった。
おそらくなにかしらの哺乳類だろう。まだ子供だ。犬や猫ではなさそう。
網で掬いあげたものの、少し鳴くだけでまったく動かない。かなり弱っている。
これがただの生き物ならば放置しておけばいいのだが、彼はどう見ても哺乳類だ。
哺乳類は同じ哺乳類としては知らん顔はできない。
このまま放置したらば猛禽類のエサになるか、また用水路に落ちるか、車にひかれる。
親が出てきてくれたらよいが、少し待ってみたがあたりどこにもその気配はない。
一時保護するしかなさそうだ。
車のトランクにあった箱にタオルにくるんで入れる。彼はまだちょっとしか動かない。
家に帰るまで彼の命はもつだろうか。
家路を急ぐ。運転しながら彼の名前だけは決めた。
足守川水系で保護したので「足守伊之助」だ。
家に着いて急ぎトランクを開ける。彼は箱の中でタオルにくるまれたまま・・。
ぐっすり眠っていた。温かかったらしく、濡れた毛もふさふさに乾いている。
我が家にはやきもちやきの猫がいるので部屋には上げれず、倉庫に案内する。
ダンボール箱に新聞やタオルを入れ、彼の部屋を作ってあげた。
そして、彼をそこに入れてあげるやいなや、箱から飛び出して逃げだした。
おいおい。さっきまで死にかけていたんだよ君は。
倉庫内を探すが隠れて出てこない。いいかげん諦めた。
これだけ元気になったなら大丈夫。水と猫のエサを置いてやり、その日は終わった。
グーグル先生で画像をいろいろ調べてみる。タヌキやカワウソにも似ている。
しかしおそらくイタチだろう。ならばしばらく保護したら川か山に帰してやろう。
翌日、確認したらば、ちゃんと猫のエサを全部食べていた。
うんちもちゃんとダンボール箱の横にしている。なかなか元気そうだ。
でも彼はまだ隠れて出てこない。仕方ないから再びエサを置いておいてやった。
さらにその翌日のことだ。確認に行くとエサが全部残っていた。
いやな予感がした。急いで彼を探す。倉庫内をしらみつぶしに探した。
確かに彼はそこにいた。
でももう息はしていない。小さな身体も硬くなってしまっていた。
何とも言えない気持ちになった。
一度は助けたはずの命だ。どうすれば正解だったのだろうか。
なかなかあのまま放置することはできないですよ。だって哺乳類ですからね。
たった2日間一緒に過ごしただけで彼の命は天に召された。
彼は現在、我が家の庭の片隅で静かに眠っている。
足守伊之助の短くて儚い物語はこれで終わりだ。
彼が私のことを恨んでないことだけを願っている。